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日常の「思い」を文字にして残します

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天野祐吉さん、ありがとうございました。

天野祐吉さんのこと

天野祐吉さん死去 「広告批評」「CM天気図」

朝日新聞デジタル 10月21日(月)5時1分配信 

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天野さんと初めてお目にかかったのは、当時勤務していたFM福井で「コピーライター大賞」という事業を企画した時でした。

 当時購読していた「広告批評」(マドラ出版)と文化放送が同じように「コピーライター大賞」を開催されており、まあ地方局のFM局が二番煎じで同じ事を地方で行おうと浅はかに考えて準備を始めていた頃。

 とりあえず、選考している文化放送というより、愛読している「広告批評」に仁義を切りに行かなくては、と思い当時南青山だったと記憶するが、「広告批評」の編集部にお邪魔し、「天野編集長にお目にかかって、お願いしたい」と失礼にも電話でアポを取り、編集部にお邪魔しました。

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 唐突に「FM福井で『コピーライター大賞』を開催したい。ついては『広告批評』のご協力をお願いしたい。予算は無い。でも個人的にはずっと創刊から『広告批評』を愛読して、天野編集長にお知恵を借りたい!」と虫のいい話を、蕩々と述べてしまった。

 当時の副編集長島森路子さんは、困惑した表情で「でも、既に文化放送さんと共催で同じようなことをやっていますしねえ。」と。もっともなことである。そのとおりです。重々承知の上です。

 「いいんじゃないの。文化放送はAMだし、FM福井さんはFMだし。それにエリアも違うし。バッティングするところ無いよ。やりましょう!でも、『広告批評』としてやるのは、ラジオはこれで終わりにしましょう。AMもFMもふたつともやったたし、キー局もローカル局もやったし。やりましょう!」と天野編集長。

 文化放送と比べても、東京と比べても、まあ違う条件だと言えば、全く違う。しかし、天野さんは「ラジオはラジオ。一緒ですよ。」と仰って頂けた。

 「審査員は地元から一人は必要だね。後の審査員は僕たちに任せて頂けるかな?さっそく始めよう!」

 こうして、後々社内的には「無謀な!」と徹底的に攻撃された、「FM福井第1回コピーライター大賞」のプロジェクトは、天野さん、島森さんの強力な応援によって始まった。

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 後日島森さんからファックスが届き(メールは当時無かったなあ)「審査員には、糸井重里さん、川崎徹さん、仲畑貴志さんでどうですか?」恐るべし『広告批評』パワー。その時期、旬というかトップ3のコピーライターをまとめてブッキングし、福井に送り込んで来る荒技をかけてきたのでした。福井の広告界のとっても大激震!でした。

(その後スケジュールの都合で仲畑さんだけが福井に来て公開審査には参加できませんでした)

 

 その後、その当時のコピーライターブームのおかげで、応募作品がぞくぞくと全国各地から寄せられ、多くの作品が集まりました。これを忙しい人気コピーライターの審査員の皆さんが一つ一つ選ぶことは時間的にも難しいということで、一次審査を天野さんと島森さんとこの私が行うことになり、『広告批評』編集部でその選考会を行うこととなりました。送られて来た山のような作品を段ボールに詰め込んで、編集部で始めようとしましたが、あまりの多さに狭い編集部は紙だらけに。そこで、天野さんは「場所を変えよう。僕の部屋でやりましょう。」と一言。その後、編集部の近所にある天野さんのマンションにその段ボールを島森さんと一緒に運び込み、夜になってから作業を始めることに。

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  間接照明が効果的な天野さんのプライベートルームで第1次審査が始まった。方法はこうです。最初に僕と、島森さんがこれかな?という作品を選びます。その後、選にもれたものを再度天野さんが読みます。そうして復活する作品が加わります。それから又選んだものをもう一度全員で読み直し、その中でこれはと思うものを残します。かなり手間と時間が掛かる方法です。

 「本当の広告ではコピーライターが何回も何回も書いているんです。その中から幾つかをクライアントへプレゼンする。一回や二回じゃないですね、広告のコピーって。だからその密度に対応しなければならないんですよ、選ぶ側は。エネルギーいるはずです。ちょっと休憩にしましょう。」

 そう言って、甘いお菓子と、美味しいお茶を、島森さんが入れてくれて、天野さんはとっておきのBGMを聴きながら選ぼうと言って、ヴェルディの「La traviata」(椿姫)のCDをかけた。

 薄暗い部屋なので(コピーを読むテーブルだけはスポットがあたって明るいが)オーディオ装置は見えないが、本当にいい音でヴェルディが聞こえてきた。

 オペラを聴きながら、コピーを読む時間がしんしんと過ぎて行く。

 そして、各自選んだ作品を声を出して各自読んで、他の人に披露する。で、今で言う「いいね」となれば一次審査通過作品として残って行く。

「ラジオCMだからね、耳で聞かないと伝わらないんだなあ。言葉を音として聴かなきゃわからないからね。」と天野さん。

濃密な時間が、過ぎていった。

考えてみれば、天野祐吉さん、島森路子さんと同じ空間で同じ時間を共有できた体験を今になってみてかみしめることが出来た。お二人とも亡くなってしまったが、この体験は本当に僕の宝物です。あのときの音楽も、部屋から見えた東京の夜景も、お二人が読むCMのコピーの言葉も、得がたい事でした。

 天野祐吉さんありがとうございました。合掌

最後に、仕事場の壁に貼ってある天野さんのトークショーの記事をご紹介します。

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